あなたとは合わないと思っていたけれど
 武琉は食に関心がない訳ではないが、自分で作りたいとは思わない。外でも十分美味しくてクオリティが高い料理が食べられるのに、わざわざ得意でもないことに手間暇かけるのは時間と労力の無駄だと感じるからだ。

 しかし香澄はその時間を惜しまず、食べたいからつくると前向きに考えているように見える。

「いつも外食だと飽きないんですか?」

 香澄が乱れた髪を手櫛で整えながら尋ねた。彼女の表情を見るとただ疑問を口にしただけで、深い意味はないように見える。だから武琉も本音を返した。

「いつも同じものを食べてるわけじゃないからな。香澄は自炊するのが面倒だとは思わないのか?」

「面倒だと思うときはテイクアウトするけど、これが食べたいって思うときは自炊の方がいいですね。だって自分でつくったら好きなものだけ食べられるし、出来上がったときの満足感があるから」
「なるほど、そういう考え方もあるのか」

 武琉はシャワーを浴びに行くのを止めて、その場で腰を下ろした。香澄との会話を続けたくなったのだ。

「自分でつくったら嫌いなものは入れないし、ノンストレスですよ。出来上がった後、家だと時間や帰りのことを気にせずにゆっくりできるし」

 香澄も武琉との会話を嫌がっている様子はない。ごく自然に受け答えしている。武琉は微笑んだ。

「今日も料理をつくってひとり飲みを楽しんでたんだ?」
< 61 / 171 >

この作品をシェア

pagetop