あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄より少し身長が低い。百六十センチくらいだろうか。肩幅が狭く華奢で儚げな印象がある。艶やかな黒髪をハーフアップにして、アイボリーのワンピースを身に付けていた。

 どこかのお嬢様のような雰囲気がある。年齢は二十代前半から半ばくらい。

 初対面のはずだが、どことなく見覚えがあるような気もする。

 素早く観察を終えてから香澄は口を開いた。

「はい、そうですが」

 香澄は仕事用の笑みを浮かべたが、相手は鋭い目で香澄を見据えた。

「武琉君の奥さんっていうからどんな美女かと思ったのに、全然大したことないじゃない」

 独り言のような小声が耳に届き、香澄は目を見開いた。

 武琉の名前を口にしたうえで、他人同然の香澄にやけに攻撃的。

(……まさか武琉さんの元カノとか?)

 厄介な気配に香澄は一気に警戒心を持った。できれば関わりたくない相手だ。このまま無視して立ち去りたいところだが、社内に居るくらいだからASJの社員の可能性がある。

 その場合、今避けたとしても後々もっと面倒なことになるかもしれない。仕方なく内心の動揺は表には出さずに、努めて穏やかに彼女に話しかけた。

「あの、失礼ですがあなたは?」

 女性は不満そうに顔をしかめた。

「蛯(えび)名(な)早(さ)織(おり)よ。同僚の顔くらい覚えていて欲しいわ」
「すみません」
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