あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄は彼女の名前をしっかり記憶してから謝罪した。

(あとで所属を調べよう)

 本社では見かけた覚えがないから空港勤務だろう。彼女の醸し出す雰囲気からCAではないかと当たりをつける。

「私は武琉君とは特別親しいの。幼い頃から一緒に育ったからね」
「幼馴染ですか」

 確認するように呟くと、早織はむっとしたように眉をひそめる。

 とにかく香澄が気に入らないらしい。そしてその気持ちを隠すつもりはないようだ。

「ただの幼馴染じゃないわ。将来は結婚しようって約束していたんだから。婚約者のようなものよ」
「婚約者?」

 香澄は、はっとした。

(もしかして両親から勧められていたお見合い相手って、この人なの?)

 まさか同じ会社にいただなんて。さすがに驚いた。しかもこうやって香澄を訪ねてきたということは、円満に破談となったのではないのかもしれない。

「私、ふたりの結婚について納得したわけじゃないの。だってこれから私との結婚を進めようってときに、いきなりあなたが割り込んできたんだから」

 案の定、早織は香澄を責めたいようだ。

(事情を知らない私にそんなこと言われても……文句があるなら本人に言ってくれたらいいのに)

 縁談をしっかり断らなかったのは武琉の責任だ。

 どちらにしても、もう結婚しているのだし、今さら何を言っても仕方ないことだ。
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