あなたとは合わないと思っていたけれど
家に引きこもっているばかりの香澄の行動範囲は酷く狭いし、人脈も乏しいのでここ数年新たな出会いなんてない。最後に恋人がいたのは大学生の頃だから、もう五年以上前になる。
「私、最近整備部で気になる人がいるんだけど、香澄も会社でいい人いないの? 中途入社とか異動でときどき新しい人が入ってくるし、調達部の仕事は沢山の業者とやり取りがありそうじゃない。声かけられたりしないの?」
「残念ながら」
香澄は肩をすくめて即答した。たしかに取引先とのやり取りは多いが、仕事で必要な会話は流暢にこなせても、プライベートの話題になると途端に口が重くなってしまう。おそらく人よりもコミュニケーション能力が不足しているのだろう。
飲み会など騒がしい場も気疲れてしまうから誘われても気が進まない。楽しんで過ごせるのは、菜恵やごく一部の親しい人くらいだ。
「香澄がその気になったら、すぐに相手が見つかると思うんだけどな……でも嫌なら仕方ないね。こういうのは無理強いすることじゃないし」
「私だって頑なに独身主義を貫きたいわけじゃないんだけど、やっぱり結婚は現実的じゃないよ。今の暮らしを続けられるなら結婚してもいいけど、そんな都合がいい相手いないからね」
「香澄の希望はお互い干渉しないで自由を認めるってことでしょ……うーん無理かなあ。仮面夫婦だったらありかもしれないけど、相手にメリットがないよね」
「うん、資産家でもない私とそんな夢も希望もない結婚したい人なんていないよ」
もしいたとしたら、複雑な問題を抱えている人物だろう。厄介事に巻き込まれそうな予感しかない。
「となると香澄のお母さんが諦めてくれるような方法を考えるしかないけど……あっ!」
ぶつぶつと呟いていた菜恵が、急に驚いたような声を出した。
何事かと釜めしに向けていた視線を上げると、香澄たちが座るテーブル近くで男性ふたりが立ち止まったところだった。ひとりはちらりとこちらを見ただけで去って行ったが、もうひとりはその場で立ち止まった。
(あれ? この人どこかで見たことがあるような)
香澄は僅かに首を傾げながら、どことなく見覚えがある男性を観察する。