あなたとは合わないと思っていたけれど
 年齢は香澄よりも少し上、三十代前半くらいだろうか。

 百八十センチはゆうに超えていそうな長身で引き締まったスタイル。端整な顔立ちをしており、ブラックのショートヘアが爽やかさを醸し出している。通り過ぎたときについ見てしまうような存在感がある男性だ。

「天(あま)谷(や)さん……もしかして奥の席にいらっしゃったんですか?」

 菜恵の声には気まずさが滲んでいた。どうやら相手は知人のようだから、多分会話が漏れ聞こえてしまったのではないかと心配しているのだろう。

 半個室とはいえ隣の席とは薄い仕切りで区切られているだけだから、小声で話さないと会話は筒抜けだ。
 香澄たちはあまり気にせず普通の声で話していた。秘密の会話ではなかったが、取り繕わない本音だった。

 他人に聞かれてもどうってことない話でも、知り合いに聞かれるのは少しばつが悪いものだ。

 しかし男性は端整な顔に何も気にしていないような、朗らかな笑みを浮かべた。

「ああ。食事を終えて帰るところだ」

 彼はそう返事をしてから、さりげなく香澄に視線を向けた。その様子を見た菜恵が口を開いた。

「彼女は私の親友で同期の西條香澄です。香澄、こちらは天谷武(たけ)琉(る)さん」

 知っているでしょ? と言いたげな菜恵の表情に、香澄ははっとして目を瞠った。

「天谷さんってパイロットの?」

 菜恵が頷く様子を見て納得した。どうりで見覚えがあると思ったわけだ。
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