あなたとは合わないと思っていたけれど
 早織は武琉に好意を抱いているようだが、武琉は彼女との結婚を嫌がったからこそ、香澄との契約結婚を選んでいる。そう考えると、早織の話を鵜呑みにはできない。

(あまり関わらない方がいいよね)

 正直言っていきなり攻撃的な発言をされて気分が悪い。でも彼女と揉めるのは都合が悪い。会社でトラブルを起こしたら香澄自身の評価が下がるだけだし、武琉にとってもマイナスだろう。

(武琉さんは、早く機長に昇格しようと頑張ってるんだから)

 早織との関係はしっかり決着をつけられなかったようだが、仕事への真摯さは付き合いが浅い香澄にも伝わってくるほどだ。

(やっぱりここは我慢しよう)

「蛯名さん、申し訳ありませんが、私と武琉さんの結婚に納得がいかないのなら、武琉さん本人と話してください。失礼します」

 香澄は淡々とそう告げた。怒りも悲しみも悔しさもない表情と声を装えた。

 まだ何か言いたそうにしている早織の横を通り過ぎ、オフィスビルを出た。


 早織の問題は武琉に丸投げすればいい。彼女と武琉がどんなやり取りをしたとしても香澄には関係がないこと。

 契約結婚としては正しい考え方のはずだ。

 そう結論を下したのに、香澄の心はなぜか落ち着かないままだった。

 早織のことはもう忘れようと思っているのに、つい考え込んでしまう。

(幼馴染って言ってたよね。それなら気心がしれているし、結婚しても気を使うことなんてなかったんじゃない? 同じ会社なら仕事にも理解があるだろうし、無理に家族サービスを強要したりしないでしょ)

 むしろ香澄よりも早織の方が、彼の結婚相手として好都合だったのではないだろうか。

 性格はきつく感じたが、あれは武琉を思うあまり嫉妬に溢れた言動で、普段は温厚なのかもしれない。

 容姿もかなり整っていた。華奢で庇護欲をそそる雰囲気で。男性はああいった女性を好むと思うのだけれど。

(武琉さんと並んだらお似合いじゃないかな?)

 想像しようとしたとき、もやもやした不快感が胸に広がりだした。

 なんだか気分が悪い。
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