あなたとは合わないと思っていたけれど
香澄は帰宅すると気分をよくすべく、お気に入りのフレーバーティーを、とっておきのガラスのティーポットで淹れた。
甘い香りが室内に漂う。いつもならこれで幸せな気分に浸れるはずだった。
けれど今日はすっきりできない。
香澄は小さなため息を吐いた。
なぜこんなに塞いだ気持ちになるのか……。
いきなり責められたのに言い返さなかったから納得がいっていない? でも香澄はそもそも揉め事が嫌いで、言い争いをするくらいなら飲み込むタイプだ。普段から余程のことでない限り反論しない。早織の失礼な態度だって、尾を引くようなことではないはずなのに。
武琉の恋愛問題をリアルに感じてしまったため、嫌悪感があるからなのか……。
(武琉さんと蛯名さんって、付き合ってたのかな?)
幼馴染が縁談相手になるのは、元々交際していたからではないのだろうか。
香澄はしばらく考えてから、軽く頭を振って立ち上がった。
きっと早織が原因で今の生活が壊れるのが不安なのだ。
香澄はもうすっかりこの契約結婚の暮らしに満足している。だから自分の平穏を乱されそうで、気が重くなっているのだ。
(うん、そうに決まってる)
香澄はどうにか納得すると、バスルームに向かいお気に入りのバスボムを湯舟に沈めた。
翌日。香澄は早織が客室乗務員であると調べ上げると、菜恵に電話をした。
《香澄、どうしたの?》
「菜恵、蛯名早織さんって知ってる? ASJのCAなんだけど」
《もちろん知ってるよ。以前同じチームだったから》
「そうなんだ。どんな人なの?」
《どんな人って……なにかあった?》
香澄は菜恵に、昨日のことを簡単に伝えた。
《言われてみれば、天谷さんとやけに仲がよかったかも》
菜恵は思い出したように言った。以前それらしい場面を見た覚えがあるようだ。
《蛯名さんは私たちより三歳年下。二級客室乗務員だけどコネ入社っぽくって、堂々としてるよ。私のことは一応先輩として立ててくれているけどね》