あなたとは合わないと思っていたけれど
 菜恵の話だと会社員としての常識はあるようだ。となると香澄への態度は、やはり個人的感情による特別なものなのだろう。

《いい家のお嬢様だって話だよ。実際持ち物も給料ではなかなか変えないような高級ブランドばかりだし、本当なんだと思う。と言ってもプライベートのことを根掘り葉掘り聞く程親しくないから、確実ではないんだけど》

「分かった。教えてくれてありがとうね」

《いいって、それより近い内に会おう。いろいろ話聞きたいし》

 菜恵と約束をしてから電話を切り、香澄は小さなため息を吐いた。

 やっぱり自分は早織に嫌われてしまったらしい。

 気持ちが重い。相手が誰であろうと嫌われて敵意を向けられるのは心が痛む。しかも今後も続く可能性が高いのだ。

 しばらく落ち込んだが、香澄に問題があるのではないのだと自分に言い聞かせた。

 武琉の結婚相手だったら、香澄ではなくても嫌われたのだろう。

 仕方がないことなのだと、気持ちを切り替えた。


 武琉が帰宅したのは、早織に会った日から三日後のことだった。

 ロンドンから東京への長時間フライトからの帰宅で疲れているかと思ったが、彼にそんな様子は見えなかった。

「ただいま」

 朗らかな笑顔で、背筋がピンと伸びていて、見ているだけでエネルギーを感じる。

 いつも引きこもってあまり動かない香澄とは正反対だ。
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