あなたとは合わないと思っていたけれど
 武琉が目を丸くした。

「ええ。違うんですか?」
「結婚の話なんてなかった。ただうちの両親がいつまでも結婚に関心を持たない俺を持て余して、よく知った幼馴染ならどうかと言い出したことはある。もちろん俺は取り合わなかったから、蛯名家に縁談を持ちかけたことはない。当然早織ともそんな話はしていないんだけどな」

 武琉が僅かに首を傾げる。

 その様子から、武琉と早織の間にはこれまで異性として意識するような何かはなかったのだろうと思った。

(本当にただの幼馴染みたい。でも蛯名さんはきっと武琉さんが昔から好きだったんだろうな)

 同僚とは常識的なやり取りができる人が、香澄に対してのみ失礼な振る舞いをした。

 それはきっと彼女にとって武琉の結婚が感情を抑えられないほど、衝撃的だったことだからだ。

 結婚して一カ月以上経ってからやって来たのは、それまでずっとひとりで悩んでいたけれど、ついに我慢の限界が訪れたからだろうか。

 実際どうなのかは分からないけれど、早織が武琉に恋愛感情をもっているのは間違いない気がする。

「早織が迷惑かけて悪かった。彼女にちゃんと注意しておくよ」

 武琉の言動からは多少の驚きしか見られない。

(それは効果がないんじゃ……むしろ逆効果かも)

 武琉が香澄を庇うようなことを言ったら、早織はますます不満を溜めてしまうだろう。そう思ったけれど、香澄は口を噤んだ。
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