あなたとは合わないと思っていたけれど
「それなら次の機会に」

 香澄は微笑んで言った。そんな機会がるかは分からないけれど。

 しばらくすると料理が運ばれてきた。武琉が自信をもって薦めるだけあって、どれも素晴らしく美味しい。窓の向こうには美しい庭園が広がり、室内に流れる柔らかなピアノの調べが耳を楽しませてくれる。

「ときどきはこういう店に来るのもいいかも」

 香澄は気づけば自然と呟いていた。

 武琉は僅かに目を瞠って言う。

「本当に?」

 彼は香澄が気を使っていっていると思ったのかもしれない。

 でも本当に無理なんてしていない。今、楽しいと感じるのは香澄の本音だ。

「本当ですよ。武琉さんの影響なのかな」

 武琉は嬉しそうな声で言う。

「他にもいいレストランをたくさん知ってる。今度連れていくよ」
「ありがとうございます」

 武琉と目が合い微笑合う。香澄はますます料理が美味しくなった気がした。

 食事の後はそのまま帰宅すると思っていたが、武琉が買い物をしたいと言い出したので、香澄も付き合うことにした。

 満腹だし自宅で好みのコーヒーを淹れてくつろぎたい。普段ならそう思うはずだが、なぜかひとりで帰る気にはなれなかった。武琉は無理強いはしなかったけれど、香澄が一緒に行くことを歓迎しているように感じた。

(部屋に新しいルームランプを買いたいと思ってたから)

 武琉の誘いがちょうどよかった。
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