あなたとは合わないと思っていたけれど
七章 気持ちの変化
 四月三週目。香澄は菜恵の誘いで、由羅に釜めしを食べに来ていた。

「その後、新婚生活はどうなの?」
「相変わらず順調だよ。思ったよりも気を使わないし、自由に過ごさせてもらってる」
「そうなんだ。たしかに彼は細かいこと言わなそうだよね。大らかな感じがするし」
「うん。寛容な人だよね」

 日常のやり取りからも武琉の器の大きさを感じることがある。

 香澄は、母が勧めるお見合い相手が几帳面と聞いて絶対合わないと思った。自分にはいい加減な人の方が合うと内心思っていたくらいだ。

 武琉はそのどちらとも違っている。プライベートではとことん緩い香澄の態度を許してくれるけれど、決していい加減なわけではない。ちゃんとしているのに寛容なのだ。

「普段は香澄が料理してるの? 胃袋掴んだ?」
「ううん。基本的には食事はそれぞれだから。そもそもあんまり家にいないしね」
「そこはドライなんだね」
「ドライって感じではないよ」

 とはいえ、最近は彼が帰宅したとき、なんとなく一緒にいる時間が増えている。

 香澄がおつまみを食べているときに帰宅した場合は、お裾分けすることもあるし。

 厳格に線を引いている訳ではなく、緩い感じだ。それは香澄にとってもやりやすい。

 ふたりの関係もぎすぎすしなくて、いい感じだ。

「そうなの? マイペースな香澄と寛容な彼の性格が丁度よい感じになってるのかな。ふーん……それならわざわざ契約結婚にしなくてもいいんじゃない?」

 菜恵が思いついたように言う。香澄は慌てて後ろを振り向いた。

 以前、周りを気にせず会話をして隣の部屋にまで筒抜けになり武琉に聞かれてしまったのだ。ここではあまり際どい話はしたくない。

「大丈夫、今日は隣に誰もいないよ。ちゃんと確認したから」
「そうなんだ」

 しっかりした菜恵の言葉に、香澄はほっと胸をなでおろす。

「それでどうなの?」
「さっきの話なら、あり得ないよ」

 香澄は平然と言い、お茶を飲んだ。

(普通の夫婦になるなんて想像できない)

 武琉との暮らしが上手くいっているのは、お互いが契約結婚をするメリットがあるからだ。その関係が変化したら今のようにはいかなくなるに決まっている。
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