あなたとは合わないと思っていたけれど
 けれど菜恵は納得がいかない様子だった。

「本当に? 彼と一緒に暮らしていて、気持ちが変わったりしないの?」
「うん。どうして?」

 香澄の反応に菜恵は少し呆れたような顔をした。

「だって結婚願望がない香澄だって、あんなにいい男と一緒に居たら気持ちが変わるものじゃないの?」
「えっ! そういう意味?」
「うん、実際どうなの? 好きになったりしてないの?」

 菜恵が香澄をじっと見つめる。見透かすようなその眼差しに香澄は居心地の悪さを感じた。

「……そんなこと考えたことがないよ。だってそういう関係じゃないし」
「そうだとしても気持ちってのは割り切れないものじゃない。私だったら彼と身近に接してたら、気持ちが揺れるな。恋しちゃうと思う」

 菜恵が実に羨ましそうな目を香澄に向ける。

「菜恵は彼氏がいるじゃない」
「それとこれは別でしょ」
「期待されてもなにもないよ。強いて言えば親しい同僚って感じ」
「つまらない。天谷さんなら香澄の頑なな心を溶かすことができると思ってたのに」
「人のこと偏屈な人みたいに言わないでよ」

 香澄は苦笑いをしながら文句を言う。けれど頭の中では、菜恵の言葉を繰り返していた。

『私だったら彼と身近に接してたら、気持ちが揺れるな。恋しちゃうと思う』

「私は恋なんていいよ」

 しかしそうは言っても武流への好感度は、当初予想していたよりも遥かに上回っているのは確かだ。
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