あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄が航空会社に就職したのは、彼のように飛行機への憧れや何かをしたいという意欲があったからじゃない。世間に名が通った企業で、両親が文句を言わなそうなところ。福利厚生がしっかりしていて、就業環境が良さそうなところ。そして自分を雇ってくれるところ。

 そんなふうに現実的な視点で選び入社した。

 香澄は自分の職務をしっかりこなして、社内で自分の立場を確立した。それでも仕事は生活の糧で、香澄自身が望んでいるのは、自宅での平穏な癒しの時間だった。

 でも今、次々と飛び立つ飛行機を見ていると、自分がASJの一員であることを嬉しく感じる。

 武琉がパイロットは夢のある仕事だと言っていた。彼と違って香澄は裏方だ。それでもASJを支えている仕事をしているのだという責任感のようなものがこみ上げる。

(武琉さんに影響されたのかな)

 展望台には大勢の人がいて本来香澄が苦手な環境なのに、今はとても気分がよい。

 しばらくすると香澄は展望デッキから下の階に下りた。空港内のレストランで食事をするつもりだ。

(天気もいいし飛行機がよく見えるカフェにしようかな)

 ターミナルをゆっくり歩いていると、フライトチームの一団が周囲の人々の注目を浴びながら、こちらに歩いてくる様子が視界の端に入った。

 これからフライトなのだろう。空港に来ている人が彼らの姿を撮影している。
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