好きって送れなかった

噂とすれ違い


学校の昼休み。
教室中に広がる、ざわついた空気。

「ねぇ、これ見た? 」
「え、ガチじゃん」
「心葉って朝比奈心葉?うわ……まじか」

笑い声、ひそひそ声、LINEの通知音。

誰かが、スクリーンショットを拡散していた。
心葉と悠翔が、こっそり送り合っていたはずの、
あの“下書き”たちを。

恋の一歩。
誰にも見せられない本音。
ふたりだけの秘密だったはずのやりとりが、
あっけなく、クラスの娯楽になってしまった。

「……誰が、こんなこと……」

心葉は、自分の手のひらが震えているのに気づく。
何もしてないのに、罪悪感だけが、全身を覆っていく。

「朝比奈さん、バレたらダッシュで逃げたとか?」
「いやでも、ちょっとキモくない?」
「ね、スクショとか保存してんの?マジか」

(違う。違う。そんなつもりじゃ……
 ただ、大切にしたかっただけなのに)
放課後
教室を出ようとした心葉の前に、悠翔が立っていた。

「待って、朝比奈さん!」

「……やめて」

「おれ、ちゃんと説明するから。
 おれが守るからーー!」

「ッだから、やめてってば!」

思わず、大きな声を出してしまう。
悠翔の顔が、一瞬、驚きに歪む。

「もう……もう、いいから。
“好き”とか……そういうの、もう、怖いから…!」

心葉は、視線を落として、声を震わせながら続ける。

「私の気持ち、みんなに見られて笑われて……
こんなに恥ずかしくて、苦しいなら……
好きになんて、ならなきゃよかった」

悠翔は、何も言えなかった。
だけど、すごく悲しそうな顔をしていた。
その顔が妙に頭から離れない。

ーーーー

あの事件から数日がたった今日、体育館。
応援席には、クラスメイトたちの声。
確か、朝比奈さんの親友も来ている。
でも、肝心の朝比奈さんの姿はない。
試合開始直後から、俺の動きはおかしかった。
パスのタイミングがずれる。
集中が切れる。
シュートが入らない。

そして――

「おい!なにやってんだよ、集中しろ!」

キャプテンの声が飛ぶ中、
悠翔は、リングの下で立ち尽くしていた。

(……何やってんだ、俺)
(こんなときに、朝比奈さんの顔ばっか思い出してる)
あの日、彼女が泣きそうな顔で言った言葉が、ずっと頭から離れなかった。

「「“好き”が、怖い」」

その重さが、プレーにも心にも、のしかかってくる。
試合は、惨敗。

帰りのロッカールーム。
仲間の誰も、悠翔に声をかけなかった。

彼は、自分のスマホを見つめる。
既読のまま、何日も返事がない朝比奈さんとのLIME。

何も言わずに彼はスマホをカバンに入れた。

ーーーーーーー


心葉はベットの上で伏せていた。
制服のまま…カーテンも閉めていて、部屋は真っ暗。

( 何もする気にならないな )

ピコン

スマホの着信音だけが部屋に響き、反射的にスマホを見る。
着信先は[悠翔くん]

___

「ねぇ、いま何してる?」
「まだ、俺のこと、思い出すのつらい?」
「もう一度、話せるようになったら、返事ちょうだい」

 ̄ ̄ ̄

スマホの画面に小さな水たまりができる。

( ごめん。悠翔くん、ごめん… )

悠翔からの優しさが、傷ついた心に沁みる。
だけど、返事はできないでいた。

でも、その画面の下――
送れずに止まった“下書き”が、また一つ増えていた。

______

「会いたいよ、悠翔君。」
「あんな酷いこと言ってごめん。大好き」
「まだ、恋人でいてくれますか…?」

 ̄ ̄ ̄

送れない。
でも、消せない。

prrr...prrrr

(…電話…美咲から?)

不思議に思いながら電話にでる。
美咲の声は、少し怒っていた。

「……今日、悠翔くんの試合、ボロボロだったよ」

「……そう、なんだ」

「心葉が来てないの、きっと気づいてたよ」

心葉は、目を伏せる。

(私のせい、だよね。申し訳ないなぁ…)

「ねぇ、傷つくのが怖くて離れたなら、それはきっと
 本当の“終わり”じゃないよ。
 心葉ちゃんの“好き”ってさ、そんなに簡単に消えちゃ
 うのもなの?」

美咲の声が重く心に沈む。

通話を切っても、心葉は無意識にスマホを握ったままだった。
だけど、画面は開かない。

(もう少しだけ、まだ怖い)

でも、ほんの少し、ほんの少しだけーー

誰かに背中を押してほしいって思っていた。
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