The Melody of My Love for Youー君への恋の旋律
放課後。 教室にはもう数人しか残っていなかった。

夕方の光が窓から差し込み、机の上に淡い影を落としている。

妃那は鞄を肩にかけたまま、律の姿を見つけた。

彼はまだ席に座り、ノートを閉じるでもなく、ぼんやりとペンを回していた。

──いまだ。

胸が高鳴り、足が勝手に律の方へ向かう。

人見知りの自分には、クラスの中で話しかけるなんて無理。

でも、今なら。

妃那は小さな声を絞り出した。

「……昨日、言ってた曲、聞いたよ」

律が顔を上げる。

驚いたように目を見開き、すぐに笑顔を浮かべた。

「え?まじ?聞いてくれたんだ」

その笑顔と声に、妃那の心臓はさらに跳ねる。

「うん!」と頷くと、律は少し照れたように続けた。

「なんか、あの曲、いいよな。自分の気持ちを歌ってくれてるみたいでさ」

息を呑む。──コメントと同じ言葉。

「そうなんだ……」

声がかすれてしまう。

でも律は気づかず、さらに言葉を重ねた。

「そういえば、昨日……っていうか今日か。新作上がってさ!」

律の目が輝く。

「めっちゃよくて。恋の歌なんだけど、メロディーがすごくきれいでさ。昨日も夜中に気づいたらコメントしてた」

「夜中……?」

思わず口にしてしまう。

「うん。2時半ごろに上がってて、3時くらいに見たかな」

さらりと言う律の言葉に、妃那の胸は再び熱くなる。通知を見たときの高鳴りがよみがえった。

「律くん、その人の曲、ほんとに好きなんだね」

うれしくて、とびきりの笑顔で言うと、律も頷いた。

「うん。昨日上がった曲も、聞いてみてよ」

「わかった。聞いてみる!」

「昨日、サビのところだけ投稿されてたから、フルも楽しみだな」

「そうだね」

妃那が答えると、律は思い出したように「あー!やべ、塾だ」と声を上げた。

「じゃあな!」と告げ、バッグを抱えて教室から出ていく。

去り際に手を振ってくれた律に、妃那も笑顔で手を振り返す。

自分の机に戻り、帰る準備をしながら小さく呟いた。

「……未来を照らす恋」

思いついたタイトルが、あの曲にぴったり当てはまる気がして、胸の奥がじんわりと温かくなった。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop