The Melody of My Love for Youー君への恋の旋律
家に着くなり、妃那は靴を脱ぎ捨てるようにして部屋へ駆け込んだ。

──今日は、絶対にフルバージョンを撮る。

鞄を放り投げ、スマホとコンデンサーマイクを並べる。

いつも通りのセットを整える手つきは、もう慣れたものだった。

マイクの角度、スマホの位置、ギターのチューニング。

すべてが整うまで、妃那は一つひとつ確認していく。

「失敗は厳禁……」

小さく呟き、冷蔵庫へ向かう。

緊張をほぐすために、ペットボトル水を取り出して一口飲む。

冷たい飲みものが喉を通ると、少しだけ肩の力が抜けた。

再び部屋に戻り、ギターを構える。

「……よし」

録画ボタンを押すと、部屋の空気が一瞬張り詰める。

昨日完成させたばかりの曲──「未来を照らす恋」。

この前、思いついたタイトルをそのまま採用した。

そして歌い出した瞬間、胸の奥が熱くなる。

ギターの音と歌声が重なり、部屋いっぱいに広がっていった。

最後のフレーズを歌い終えると、妃那は深く息を吐いた。

「ふー……撮れた」

録画を止め、スマホの画面を確認する。

失敗はない。

音も声も、しっかりと収まっている。

「これなら……投稿できるかな」

胸の奥で期待を抱えながら、妃那は動画を保存した。

律が「フルも楽しみ」と言っていた言葉が、頭の中で何度もリフレインする。

──この曲が、彼にきいてもらえるかも。

そう思うだけで、頬が自然と緩んでいった。

そして、タブレットで編集アプリを起動して、歌詞の字幕を打ち込んでいく。

次々にタブレットの画面に文字が並んでいく。

「未来を照らす恋」

──そのタイトルを打ち込むと、妃那の胸はさらに熱くなった。

歌詞を一行ずつ入力するたびに、昨夜のことが頭をよぎる。

律が「フルも楽しみ」と言ってくれたこと。

そして「自分の気持ちと一緒」とコメントしてくれたこと。

その言葉を思い出すたびに、指先が震える。

動画編集の画面に切り替え、弾き語りの映像に冬らしい雪のエフェクトを重ねる。

キラキラと光が舞い降り、ただの演奏動画が華やかに彩られていく。

「……よし、完成」

深呼吸をして、投稿画面を開く。

タイトルを入力し、ハッシュタグを添える。

「#未来を照らす恋 #華音 #片思い」

指先が投稿ボタンの上で止まる。

──押したら、もう戻れない。

胸の奥で迷いが渦巻く。

そして、指先で画面をタップした。

投稿完了の通知が表示される。

その瞬間、心臓が大きく跳ねる。

「……ああ、やっちゃったぁぁ」

ベッドに倒れ込み、スマホを胸に抱きしめる。

不安と期待が入り混じり、頬は熱く染まっていた。

──律が、聴いてくれるかもしれない。でも、それだけで、世界は輝いて見えた。
< 6 / 7 >

この作品をシェア

pagetop