初恋の続きはトキメキとともに。
そう、不意打ちで初恋の人の名字が耳に飛び込んできて動揺していたのだ。

広瀬なんて全国的によくある名字だし、まったく珍しくもなんともない。

だというのに、こんな些細なことで狼狽するとは恥ずかしい限りである。

きっとついこの前茉侑と話している時に広瀬先輩のことを鮮明に思い出してしまったからだろう。

 ……今日は異動初日なんだから、しっかりしなくちゃ! 

私は雑念を振り払い、朝礼後は会議室で井澤課長との面談に挑んだ。


「高梨から部署の体制などは聞いているな?」

「あ、はい。営業一課の担当領域なども伺いました」

「ならば、俺からは上司として南雲に期待することを伝える」

険しい目つきの井澤課長と面すると、怒られているわけではないのに、緊張で体が強張る。

私は課長の言葉を絶対に聞き逃さないよう、真剣に耳をすませた。

「まずさっきも言った通り、南雲には広瀬のアシスタントに就いてもらう。広瀬は本社営業部のエースだ。アイツの営業成績は一課の売上に大きく影響するから、アシスタントの責任も重大だと心得ろ」

「は、はい……!」

「神奈川支社の総務課長から、南雲の仕事ぶりは正確かつ丁寧で頼りになると聞いている。期待しているぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「南雲にはできる限り早く戦力になってもらいたい。広瀬のアシスタントは欠員だったからな。アイツはアシスタントなしでも涼しい顔して1人でササっと事務処理もこなしてしまうが、負担にはなってるはずだ。広瀬から仕事を奪うつもりで業務にあたってくれ」

「分かりました……!」

こくこくと頷いてはいるものの、本当に私で大丈夫なんだろかと気が気でない。

以前の上司が私のことを好意的に井澤課長に伝えてくれていたみたいだけど、些か過大評価すぎる。

そのせいで私の手に余りそうな期待がのしかかってきてしまい、思わず総務課長に恨み節を吐きたくなった。

もうここまでの話でお腹いっぱいの気分だったが、残念なことに井澤課長からの言葉はまだ続く。
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