初恋の続きはトキメキとともに。
総務課長も内山くんも、たぶん異動が決まった私への餞別(せんべつ)として、激励の意味を込めて褒めてくれただけなのに。

「えっと、その話はきっと内山くんのリップサービスなので、あまり真に受けないでくださいね……!」

広瀬先輩の目を真正面から見つめ返すことができなかった私は、やや視線を彷徨わせながら、慌てて訂正の言葉を口にした。

だが、時すでに遅し。

広瀬先輩も、久我くんも、高梨さんも、どうやら私が謙遜していると思ったみたいだった。

「ははっ……南雲さん、褒められて照れるのは分かるけど、そんなに必死に否定しなくてもいいよ。謙虚なんだね」

広瀬先輩が漏らした穏やかな笑い声が、その場の空気をやわらげる。

高校生の頃、幾度となく目にした優しく柔らかな笑みは今も変わっていない。

思わず懐かしい気持ちが胸に込み上げてくる。

 ……広瀬先輩、変わってないなぁ。

その場にいるだけで人を惹きつける魅力は今も健在で、その笑顔だけで誰もがグッと心を掴まれてしまう。

あの頃のように、相変わらず憧れずにはいられない、眩しい存在のままだ。

ふと視線を感じて周囲を見渡せば、多くの人で混み合う社員食堂の中でも、広瀬先輩は注目を集めているようだった。

女性社員はチラチラと盗み見ながら秋波を送り、男性社員は憧憬や畏怖の眼差しを向けている。

こんなふうに周りの視線を釘付けにするのも昔のままだ。

でも高校生の頃とは違うところもあった。

あれから10年以上の時が経ち、大人の落ち着きが加わっている。

今も昔も広瀬先輩が端正な顔立ちで優しい雰囲気なのは変わらない。

だけど、昔は爽やかな印象だったのに対して、今はスマートで誠実そうな印象の大人の男性になっている。

ブレザーの制服から三揃いのスーツへと服装が変わり、髪も、かつては無造作に前髪を下ろしていたけど、今は軽く横に流し、額を出したきちんとしたスタイルに変わっていた。

そしてなによりも決定的に違うのが……

「南雲さん、甘いものは好き? これ食べる? 異動初日だったのに、チームをまとめる立場の俺が南雲さんを今朝出迎えられなかったお詫び。あと歓迎の意味も込めて」

そう言って広瀬先輩は、「どうぞ」と囁やきながら自身のプレートの上にあったプリンを私のプレートの上に置いた。

驚いて顔を上げると、広瀬先輩はニコリと柔らかく目を細める。
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