初恋の続きはトキメキとともに。

#04. 憧れの人が身近にいる毎日

「南雲さん、新規で営業かけてた企業に注文もらえたからさっき詳細をメールしておいた。契約書と見積書の作成、あとシステムへのデータ入力をお願いしていい?」

「あ、はい! 承知しました」

「できればオフィス戻った時に確認したいから、それまでに進めてもらえると助かる」

「分かりました。……今日は外すごく暑いと思いますので、熱中症などお気をつけください。お戻りお待ちしています」

「ふふっ、ありがとう。じゃあまたあとで」


通話を終えて固定電話の受話器を置くと、私は「ふぅ……」と小さく息を吐きだした。

同時に張り詰めていた背筋がゆるむ。

本社営業部に異動してきてから早2週間。

仕事の流れを掴み、基本的な業務には対応できるようになってきた。

広瀬主任と顔を合わせ、言葉を交わし、一緒に仕事をすることにもなんとか慣れてきつつある。

 ……でも、でも、でも! 電話は今でも緊張して力が入っちゃう……!

高校時代に思いを募らせた憧れの人の声が耳元で聞こえるのだ。

鼓膜を震わせる、優しく柔らかな声に動揺するなという方が無理である。

しかも電話中というのは、ある意味私と広瀬主任、2人だけの空間なわけで。

広瀬主任の意識も、時間も、言葉も、私が独り占めしているということだ。

昔の私が知ったら発狂すること違いなしの、贅沢すぎるひと時である。

「遥香さん、主任からの電話だったみたいですけど、大丈夫そうですか? なんか難しいこと依頼されちゃいました?」

緊張から解放されてしばし気持ちを落ち着けていると、向かい側の席から高梨さんが心配そうな顔で私に訊ねてきた。

「新規の注文をもらえたみたいで、契約書と見積書の作成、システムへのデータ入力を頼まれたんだけど……たぶん大丈夫! もし分からないところがあればまた聞いてもいい?」

「もちろんです! でも遥香さんってば、一度聞いただけですぐ覚えちゃうし、事務処理スピードが超早くて丁寧だし、もうわたしが教えることなんてほぼないですけどね。むしろわたしが教えを請いたいくらいです!」
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