初恋の続きはトキメキとともに。
「いや、こっちこそ気づかずぶつかってしまってごめん。南雲さんが無事で良かったよ。……ところでその格好……お祭りか花火?」

「はい、すぐそこの商店街で夏祭りをやっていて。その帰りです」

そのまま続けて「広瀬主任はどうしてこの辺りに?」と口にしそうになり、私はグッと言葉を呑み込んだ。

プライベートを詮索するような言動は慎んだ方がいい。

私如きが広瀬主任にそんなことを聞く権利なんてない。

そう思ったのに……

「そうなんだ。俺はこの近くに住んでるんだけど、夏祭りのことは全然知らなかったよ。たぶん駅でチラシとか目にしてたんだろうけど、自分には関係ないって無意識にスルーしてたんだろうなぁ」

私が訊ねるまでもなく、広瀬主任の方からアッサリ教えてくれた。

 ……広瀬先輩、この辺りに住んでるんだ。

また一つ、広瀬主任についての情報が増えた。

でも住んでいる場所をサラリと告げるなんて、いくら男性でも不用心すぎないだろうか。

私がストーカーだったらどうするんだろう。

ただでさえ広瀬主任は人を惹きつけるのだから気をつけた方がいい気がする。

かつて広瀬主任の姿を目で追いかけ、一方的にずーっと見つめ続けていた私だからこそ、そう思う。

「それじゃあ、そろそろ俺は行くね。南雲さんも気をつけて。また明日」

「……あ、はい。失礼します!」

一瞬、“また明日”という一言に胸がキュンとした。

明日は月曜日。
オフィスで顔を合わせる日だ。

だから広瀬主任の言葉に深い意味はないのは分かっている。

 ……なのに、明日も会える関係なんだ、と思うと胸が熱くなるのはなんでだろう。

軽く会釈をして、私は歩き去る広瀬主任の後ろ姿を見つめる。

しばらくそうしていると、隣から忍び笑いが聞こえてきた。

「ふふふふっ、見ぃーちゃった! ふぅん、あの人が例の先輩なんだぁ!」

もう我慢できないとばかりに茉侑がニヤニヤ笑っている。

私からの話を聞いて高校の頃から広瀬主任の存在だけは知っていた茉侑だが、実物を目にするのは初めてである。
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