初恋の続きはトキメキとともに。

#06. 二人きりの残業

「はぁぁ……仕事捗らないですねぇ……」

「本当だね。システムが思うように使えないと、どうしても事務処理スピードは落ちちゃうよね……」

仕事中、向かい側の席から高梨さんの大きなため息とぼやきが聞こえてきた。

そのつぶやきに頷きながら私は眉を下げる。

システムの不具合が発生してから早数日。

あの日結城くんを呼んで見てもらったが、結局原因は分からず、すぐに復旧は難しそうだと告げられた。

その後、改めて情シスから上長宛てに「使用停止のお願い」が通達された。

結城くんが確認作業で得た情報を部署に持ち帰り、システム開発会社ともやりとりしてくれたみたいで、翌日には一部の機能が復旧。

ただ、いまだに全面的な復旧には至っておらず、メンテナンスが続いている。

一応、日々の業務でマストな機能は使えるようになったから致命的な弊害は起きていないのだけど、まだ使用停止中の機能もあるわけで、不便さを感じてしまうのは否めない。

一見些細な使いづらさも、積み重なればストレスになるし、業務効率も落ちてしまう。

外回りの営業担当よりも、事務作業が中心の営業アシスタントである私や高梨さんの方が特にそれを顕著に実感していた。

「あぁーー、残タスクが積み上がっていく〜! まとめてパパッと済ませたいのに、こういう時に限ってその機能が使えないんですよねぇ……!」

頭を掻きむしりそうになる衝動に耐えるかのように、高梨さんは顰めっ面でぶんぶんと首を横に振った。

動きに合わせてポニーテールの髪も揺れる。

そんな様子を見て「だいぶイライラが溜まっているみたいだなぁ」と心配になったその時。

トゥルル……

その場の重苦しい空気をぶった斬るように、突然、私のデスクの内線が鳴り響いた。


「はい。ホームケア事業部・営業一課の南雲です」

私が速やかに受話器を取ると、向こうからはここ最近何度も耳にしている抑揚のない低い声が聞こえてきた。

「……結城くん! システムの件、だよね? 状況はどう?」

「全面復旧。……この後、上長にも連絡いくと思う」

「わぁ! 本当!? 良かった」

「もう、普通に使ってくれていいから」

「うん、分かった。色々とありがとう」

「……なんかあったらまた呼んで。じゃ、それだけ」
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