初恋の続きはトキメキとともに。
だが、先方の都合で、明日の午前中までに追加資料の提出を求められたのだ。

その資料を、先方の担当者が翌日午後の会議に持ち込んで決裁にかける手筈らしい。

「――というわけで、申し訳ないんだけど、追加資料の作成を南雲さんにお願いしていい? 運悪く、俺は今日は夜までアポがぎっしりで動けなくて……。タタキまで作っておいてくれたら後は俺が自分でやるから」

こんなふうに頼りにされたら、私が奮起するのは当たり前だろう。

担当アシスタントとしても、広瀬主任に長年憧れを抱く一個人としても、力になりたいと強く思った。

予定外に急遽発生した資料作成。

それに加えてデイリー業務や展示会の準備、さらにはシステム不具合によりもともと滞っていたタスク。

これらが積み重なり、その結果今日はこの時間まで残業となってしまったのだった。

「よし! 資料はこんなものかな」

私はパソコンで作成した資料をプリントアウトして、最後に紙の状態で最終チェックをして、クリアファイルに差し込んだ。

これで今日のTO DOはすべて完了である。

そろそろ帰ろうとデスク周りを片付ける。

それが終わった途端、なんだか急に気が抜けて、私は無意識に安堵の息を吐きながら、へたりとデスクに突っ伏した。

その時だ。

ガチャリ、と静寂を切り裂く物音が背後から耳に届いた。

私はビクッと肩を震わせながら体を起こし、反射的に振り返る。

するとそこには、仕立ての良いスーツを身につけた長身の男性が佇んでいた。

「南雲さん? 廊下に少し灯りが漏れてたから誰か残ってるんだろうとは思ってたけど、まだ帰ってなかったの? ……もしかして追加資料の件?」

こちらへ歩み寄ってくる広瀬主任の顔には驚きが浮かんでいる。

私がこの時間まで残業していたのは予想外だったのだろう。

優しい広瀬主任が「自分のせいだ」と責任を抱いているような気配を感じ、私は慌てて胸の前で手を振って否定した。

「あの、違います! 追加資料のせいじゃないです。それもありますけど、それだけじゃなくて……その、偶然色々重なって!」

私は隣の席に腰を下ろした広瀬主任に向かって、つらつらと事情を説明する。

少しだけ表情を和らげた広瀬主任だったが、それでもやはりまだ私に対して申し訳なく思っているようだった。
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