初恋の続きはトキメキとともに。
「――そっか、状況は分かった。けど、まだ異動して2ヶ月弱なわけだし、追加資料の件はやっぱり負担だったよね。俺の配慮が足りなかったよ、ごめん。……南雲さんって頼りになるから、なんかつい甘えてしまうんだよなぁ」

 ……頼りなる? 甘えてしまう? えっ、誰が誰に!? もしかして、あの広瀬先輩が私に……!?

衝撃的な台詞は雷のように胸を打ち、思考が一瞬で真っ白になった。

まるで時が止まったかのように、私は言葉を失う。

「そうだ、取引先でもらったんだけど、これ飲む? もし良かった御礼にどうぞ」

固まったままの私に気づくことなく、広瀬主任は鞄から缶コーヒーを取り出すと、コトリと私のデスクの上に置いた。

柔らかな微笑みを向けられ、ふと異動初日にもプリンをもらったなぁと思い出す。

 ……憧れの広瀬先輩から2度もモノをもらえるなんて。高校の頃から考えたら、ありえない出来事だよ……!

一方的に見ていただけの日々を思えば、奇跡とも言える状況だ。

プリンは無理だったけど、保存の効く缶コーヒーはついそのまま持って帰りたい衝動に駆られる。

大事な思い出として家でこっそり飾りたい。

まさにファンのような心理。
一歩間違えればストーカーへ一直線だ。

しかし私はグッと気持ちを抑え込み、もらった缶コーヒーを手に取った。

「……ありがとうございます! お言葉に甘えていただきます」

ぺこりと軽く頭を下げて、プルタブを開ける。

今の私はかつての私ではなく、広瀬主任の職場の後輩だ。

職場の先輩からの厚意は、人間関係構築の観点からも快く受け入れる方がいい。

心の奥底に渦巻く記念に持ち帰りたい衝動を押し込めて、私は遠慮なくゴクゴクと缶コーヒーを飲み始めた。

「そういえば、この前の休日に偶然会った時は驚いたね。すぐには南雲さんだって分からなかった。浴衣姿だったからか全然雰囲気違ったし」

「そうですね。私もビックリしました……!」

「あの浴衣、南雲さんにすごく似合ってたよ。可愛かった」

「か、か、かわ……!?」

思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

カッと頬が熱くなり、盛大にどもる。
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