初恋の続きはトキメキとともに。
もうこれは不可抗力だ。

広瀬主任が信じられない言葉を口走ったのだから。

「ははっ……顔赤くなってる。可愛い」

目を細めて柔らかく笑った広瀬主任は、私を見ながらまたしてもあのパワーワードを口にする。

 ……無理! 無理! 無理! 心臓がもたないっ!

そもそもそんな言葉を言われ慣れていない上に、それを言ってる相手があの広瀬主任なのだから、私の心は大パニックだ。

ドキドキするし、恥ずかしい、混乱するし、焦るし……ともかく色んな感情がごちゃ混ぜで収拾がつかない状態である。

きっと仕事の疲れと深夜のテンションが相まって、広瀬主任は正気じゃなくなっているのだろう。

私相手に変な言葉を言っている自覚がないか、目がおかしくなってるのかのどっちに違いない。

「……あの、広瀬主任! これ、頼まれていた追加資料です。か、確認してもらえませんか!」

私は空気を切り替えるべく、おもむろに目に付いたクリアファイルを手に取る。

そして広瀬主任の方へ押し付けるように手渡した。

資料を受け取った広瀬主任は、さすがに頭を切り替えたらしい。

いつもの仕事のできる男のオーラを纏い、資料の中身に目を通し始めた。

いつもの空気感に戻り、私はホッと肩を撫で下ろす。

辺りがシンと静けさを取り戻す中、気持ちを落ち着けるために缶コーヒーをぐびぐびっと最後まで飲み干し、その後ひっそりと吐息を溢した。

同時に、私は今更ながらある事実に思い至る。

 ……そういえば、今このフロアって誰もいないんだった。つまり……広瀬先輩と二人っきり、ってことだよね……?

今まで驚きと動揺で忙しく、まったく意識に引っ掛からなかった。

だけど、一度気づいてしまえば、そのことを強く意識してしまう。

心の中で私があたふたしていると……

「………すごいな」

ふいに広瀬主任の唇から零れた小さなつぶやきがその場に響く。

どうしたのか、とそちらに顔を向ければ、思いのほか真剣な瞳をした広瀬主任と視線がぶつかった。
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