初恋の続きはトキメキとともに。
回らない口の代わりに、先に体が動いた。

私はバッと勢いよくその場に立ち上がる。

そしてデスクの足元に置いてあった鞄を引っ掴んだ。

「広瀬主任、修正点を教えて頂きありがとうございました! とてもよく分かりました! ……では、私はお言葉に甘えて、先に失礼させて頂きます。お疲れ様でした……!」

一息でそう言い切ると、私は脇目も振らず一目散にオフィスを後にした。

 ……ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ! 絶対に昔のように好きにならないようにって思ってたのに……!

会社を出てからの帰り道、周りの景色も目に入らないほど私は混乱の極みに陥っていた。

どうしようもなく心が揺れる。

しっかり蓋をしておいた、かつての恋心が今にも溢れ出しそうだ。

あの広瀬主任が私を頼ってくれて、
資料を褒めてくれて、
優しい笑顔を向けてくれて……。

それだけじゃなく、
「可愛い」と言ってきたり、
親しげにからかってきたり。

あんな言動や表情は初めて見た。

高校時代とは明らかに違う、どこか甘さを含む仕草にドキドキしてしまう。

 ……でもダメ! きっと勘違いだから! 好きになっても不毛なだけなんだから!

必死に私は自分の気持ちを抑制する。

開きかけた蓋を隙間なくきっちりと閉めつけた。

そう、私は知っている。

広瀬主任の言動は、すべて何気ないもので、全然特別なことじゃないってことを。

高校の時に傘を貸してくれた時もそうだった。

久我くんや高梨さんも、広瀬主任は人たらしだって言っていた。

それに、もう一つ忘れてはいけない事実がある。

 ……広瀬先輩は今も長年付き合った元カノさんを想っているんだよ?

会社の人は知らなくても、私だけはその事実を知っている。


私は再燃しそうな胸のトキメキを振り払うかのように、ぶんぶんと首を左右に振った。

――だけど、なぜだか今になって、先日会った際に茉侑が発した「ふぅん」という意味深な声が、何度も何度も頭の中でリフレインしたのだった。
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