初恋の続きはトキメキとともに。

#07. トラブル発生の展示会

残業した日の帰り道に、心の奥から溢れてくる想いを無理やり蓋をした対処が功を奏し、あれから私は何事もなかったように毎日を過ごしている。

広瀬主任もあの日以来、私を動揺させたような言動を見せることはなかった。

翌日にオフィスで顔を合わせた時には、昨日の出来事は「夢だったのかな」と私自身の記憶を思わず疑ってしまうほど通常運転。

「昨日は資料作成ありがとう」と御礼を述べられただけで、それ以外は残業について触れることはなく。

広瀬主任はいつも通りの柔らかな優しい笑みに、いつも通りの言葉や態度だった。

だから、自然と従来通りの日常が舞い戻ってきて、私はまた仕事に没頭する日々に入り込んでいった。

ちなみに追加資料を急遽作成して対応した大手スーパーの案件は大成功。

競合他社から当社への切り替えが決定し、課内でも大騒ぎの大型受注となった。

広瀬主任は営業として大きな実績を得て、エースの名に恥じない仕事ぶりから社内での評価はますますうなぎのぼり。

そのおこぼれで、追加資料の作成を手伝っただけにもかかわらず、私までアシスタントとして井澤課長からお褒めの言葉を頂いてしまった。

まだちょっとだけしか貢献できていないけれど、営業一課の一員として認められた気がして嬉しかったし、少し自信をつけることができた。

そうこうしているうちに、日々は慌ただしく過ぎていき……

気づけば、風に乗って金木犀の甘い香りが漂い始める季節を迎えていた。

私が異動してきてから約3ヶ月。

10月になり、いよいよ今日は大規模な展示会の日である。

「会場入りして準備しているとなんだかドキドキしてきますね! 特に今年はうちのチームがメイン担当だから気合いが入っちゃいます!」

「その気持ち分かるなぁ。オレも今日は特別な日用のスーツで気合い入れてきたし! 商談成功させまくって、広瀬主任からエースの座を奪う気マンマンだし!」

「心意気は超カッコいいですけど……久我さん、その目標設定はハードル高すぎじゃないですかぁ?」

「分かってるっての! 高梨はオレに冷たくない!? まぁともかくそれくらい頑張るって意味!」
< 44 / 119 >

この作品をシェア

pagetop