初恋の続きはトキメキとともに。
「あの、これ良かったらどうぞ」

「キャラメル……?」

「外出した際にコンビニでついでに買ったんですけど……以前プリンや缶コーヒーをいただいた御礼です。疲れた時に効きますよ?」

広瀬主任は私に御礼を告げ、箱からキャラメルをひと粒取り出すと口へ含む。

牛乳やバターが織りなす濃厚でまろやかな甘さが口の中いっぱいに広がったのだろう。

幸せそうに唇の端がふっと緩んだ。

「疲れてる時のキャラメルは最高だね。癒される。……実は俺、キャラメル好きなんだ」

打ち明けるように付け加えられた最後の一言。

そうなんですね!と驚くところなんだろうけれど……

 ……はい、ごめんなさい。広瀬先輩がキャラメル好きなこと、実は知ってます。

なにしろ高校の時、広瀬主任のことを一方的にいつも目で追いかけていたのだ。

よくキャラメルを食べていたのを目撃していたし、周囲の友人にキャラメルが好きと話していたのも耳にしている。

その影響を受けて、つい私もキャラメルを購入してしまうようになった。

当時の私は、好きな人の好きな物をマネして買って、同じ体験をすることで満足していたのだ。

それ以降キャラメルを買うことが癖になり、大人になった今でもふとした時に選んでしまいがちなのだった。

 ……ストーカー一歩手前だよね。でもあの頃は淡い初恋だったから許して……! 恥ずかしすぎて、口が裂けても絶対こんな事実は言えないけど。


誰に言い訳しているのか不明だけど、私は心の中でキャラメルを所持している事情を必死に言い繕った。


「キャラメルありがとう。美味しかった。……あと、今日は朝から本当に色々ありがとう。南雲さんにはいつも助けられてばかりだなぁ」

「とんでもないです。こちらこそ、いつも広瀬主任にはお世話になってばかりですから……! 私のしたことなんて、本当にほんの些細なことですし」

「いやいや、全然些細じゃないから」

「でも広瀬主任のように大型受注を決めるみたいなスゴイことではなく、誰にでもできることですから。いずれにしても、お役に立てたなら良かったです!」

広瀬主任から褒めてもらえるのは心の底から嬉しい。

高校生の頃の、あの地味で冴えない自分から変われた気がするから。

私は喜びを滲ませて素直ににこりと微笑んだ。

するとなぜかグッと言葉を呑み込んだ広瀬主任から、真剣な瞳で真っ直ぐに見つめられた。

その瞳に熱がこもっている気がして私は目を瞬く。

「南雲さ――……」

続けて広瀬主任が口を開こうとしたその時。


「遥香さん、お待たせしましたー! 発送準備も終わったので帰りましょう! あれ? 主任もまだいたんですか?」

無邪気な明るい声が割って入り、私達はそのまま帰り支度をしてホテルを後にすることになった。

結局、広瀬主任が言おうとした言葉は聞けずじまいだった。
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