初恋の続きはトキメキとともに。
プレッシャーを跳ね除けるように、私は生ビールのジョッキを手に持つと、ゴクゴクゴクといつもよりハイペースに飲み始めた。

井澤課長を前にした緊張もあったからか、一旦飲み始めると手が止まらない。

普段ならお酒は1杯前後を嗜むだけなのに、この日は2杯、3杯……と飲み続けた。

いつしか頭がふわふわしてきて、気分が高揚し、なにもかもが楽しくなってくる。

さっきまで蛇に睨まれた蛙の如く身を縮こまらせていたのに、次第に井澤課長とだって伸び伸びと会話をしていた。

「――南雲さん、大丈夫? ちょっと飲み過ぎなんじゃない?」

その時、ふいに頭の上から、耳に心地良い声が降ってきた。

包み込むような優しい声音が胸に響き、無意識に頬が緩む。

私は心のままにへらっと笑い、声の主を見上げた。

「広瀬先輩! お疲れ様です!」

ついうっかり、いつも心の中で呼んでいる呼称が口を突いて出てしまった。

広瀬主任はわずかに目を丸くしている。

普段なら大慌てしているところだけれど、今の私は気にならない。

一瞬だけ、しまった、と思ったものの、「まぁいいか」とあっさり受け流した。

「……井澤課長、飲ませすぎじゃないですか?」

「俺か? 俺が悪いのか? 無理に飲ませてないぞ。機嫌良く飲んでたから南雲の好きにさせてただけだ。……俺を怖がらず笑顔で話にも付き合ってくれるしな」

「はぁ……それ、完全に止める気なかったですよね? いくら怖がらずに話をしてくれる女性が貴重でも、部下を飲ませすぎないでくださいよ」

目の前では、まるで上司と部下が入れ替わったみたいな珍しい光景が繰り広げられている。

広瀬主任がお説教くさくなっているのも、井澤課長が弱ったように言い訳しているのも、いつもと違って面白い。

私はその様子を微笑みながら興味津々に眺めていた。
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