初恋の続きはトキメキとともに。
「少しはマシになった?」

「……は、はい。あったかいです」

「ふふっ……顔赤いけど、そんなに効果あったの?」

あの残業をした日のように、小さく笑いながら、広瀬主任はからかい口調で私の顔を覗き込んでくる。

恥ずかしくて、恥ずかしくて、たまらない。

私はその視線から逃れるように顔を逸らし、駅へ向かう足を速めた。

ようやく駅前の交差点に辿り着き、横断歩道で信号が青に変わるのを待つ。

終電時間が近いこともあり、信号を待っている間にも横断歩道には次々に人が押し寄せてきた。

 ……駅はもうそこ。早く青になって〜! 

駅に到着さえすれば、そこで広瀬主任とはお別れだ。

このままの調子だと心臓が持ちそうにないから早く解散したい。

しっかりと蓋をしたはずの想いが今にも溢れ出しそうで怖い。

私がジリジリとした思いで信号が変わるのを今か今かと待ち侘びていると、近くにいた男性グループの一人が酔っ払って私の方へふらついてきた。

軽く腕にぶつかられて、そちらに全く意識が向いていなかった私も不意を突かれよろめく。

車道の方へ転びそうになり、受け身を取る覚悟だけを決めて、思わずギュッと目を瞑ったところ……

腕を引き寄せられ、次の瞬間には広瀬主任の広い胸に抱きとめられていた。

かつてないほどの近い距離に、口から心臓が飛び出しそうになる。

ジャケットとは違って、服越しに直接体温が伝わってくるし、ふわっと香るいい匂いが鼻腔をくすぐり頭がクラクラした。

 ……無理! これはヤバイ……!

心の奥底に封じ込めておいた気持ちが、蓋を押し上げて徐々に顔を出し始める。

私が人知れず大パニックに陥っていると、ふいに広瀬主任がボソリとつぶやいた。

「……やっぱり、放っておけないな」

「えっ?」

空気に溶け込むような低く小さな声だったため、私は聞き取れず、反射的に顔を上げて聞き返した。

「ごめん、ちょっとこっち来て」

今度は普通に聞き取れる声量で口を開いた広瀬主任は、そう言うやいなや私の手を取って、信号待ちの横断歩道から離れるように歩き出した。

しばらく無言で歩き続け、ようやく広瀬主任が足を止める。

着いた場所は、駅からそう遠くない静かな路地だった。
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