初恋の続きはトキメキとともに。
駅前の人の多さが嘘のように、ここには人通りがない。

しんと静けさをが漂い、耳に届くのは、秋の虫の鳴き声や、秋風によって揺れる木々の音だけだ。

 ……どうして、ここに……?

立ち止まった途端、戸惑いと共に、繋がれた手に意識が集中する。

今更ながらにじわじわと顔が赤くなってきたその時。

急にその手を引かれて、広瀬主任の腕の中に抱き寄せられた。

背中に腕を回され、ギュッと抱きしめられる。

「――へっ!?」

予想外の事態に、私は思わず間抜けな声を唇から零した。

 ……私、もしかして……今、あの広瀬先輩に抱きしめられてる!? うそ……!?

信じられない思いで目を見開く。

これは一体どういうことだろう。

これも広瀬主任にとっては特になんの意味もない行動?

ただの気まぐれ?

誰にでもこんなことをするってこと?

そうだとしたら、さすがにこれはタチが悪すぎる。

 ……こんなの、好きになっちゃうよ。


「あの、離してください。……広瀬主任が無自覚な人たらしだってことは知ってますから、深い意味がないのは分かってます。でもさすがにこれは……」

「――深い意味だよ」

「えっ?」

「こんなこと、他の女性にはしない。南雲さんだからだよ」

「……あの、それって」

「本気で南雲さんに惹かれてる。……俺と付き合ってほしい」


そう言った広瀬主任と視線が重なった瞬間、世界の音が止まった気がした。

頭が真っ白になり、続いて高校時代の情景や、再会してからの出来事が脳裏に走馬灯のように流れる。

 ……えっ、ホントに!? これは夢!? あの広瀬先輩が私に……告白してる?


もしも異動した時が広瀬主任との初対面だったならば、これほどの衝撃はなかっただろう。

一緒に仕事をするうちに惹かれ合い、付き合う流れはごく一般的だ。

告白されて驚きはしたかもしれないが、迷わず頷くと思う。

だけど、現実はそうじゃない。

私は高校生の頃に広瀬主任に片想いをしていて、一方的に憧れ、見つめていたという過去がある。
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