初恋の続きはトキメキとともに。
いかに手の届かない遠い存在だったのかをこの身を持って知っているのだ。

だからこそ、今この状況が信じられない。

どうしても、ありえない、と思ってしまう。


「……で、でも、広瀬主任は、恋愛から一線引いているって……?」


呼吸が乱れ、言葉を詰まらせながら、私はやっとの思いで一言を紡いだ。

触れずにはいられない疑問だ。

そう、広瀬主任は長年付き合った元カノさんを引きずっていたはずである。

ただ、私が高校の後輩だと広瀬主任は知らないから、直接的に質問することはできない。

そこで私は遠回しな表現で問いかけた。


「うん、それは事実。確かに俺はここ何年も恋愛からは距離を置いていた。……南雲さんと出会うまでは」

「私と、出会うまで、ですか……?」

「そう。一緒に仕事をするうちに、南雲さんの真っ直ぐで一生懸命なところ、さりげなく周囲をサポートしてくれるところ、素直で可愛いところ……そういう部分にどうしようもなく惹かれたんだ。立場上、最初は気持ちを抑えようとしたけど無理だった。……だから、本気じゃなければ、こんなふうに告白しないよ」

「………ッ!」

熱を帯びた真剣な瞳で見据えられ、胸が甘くときめく。

秘めていた想いが蓋を押しのけてぶわっと勢いよく広がり、私はとうとう恋心を再燃させてしまった。

もう認めざるを得ない。

ただの憧れとか、
役に立ちたいとかじゃなく……

――好きだってことを。


「私で、いいんですか……?」


最後の最後の確認のため、わずかに震える声で私は訊ねた。


「南雲さんじゃなければ、嫌だ」


返ってきたのは、シンプルな一言だった。

でも、真摯で、真っ直ぐで、甘くて。

広瀬主任のように優しく誠実さに溢れた言葉に、私は目頭を熱くする。


そして……

「私なんかでよければ、どうぞよろしくお願いします……!」

気づけば震える声でこう応えていた。


こうして、私は11年の時を経て、奇跡的に初恋を実らせた。
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