初恋の続きはトキメキとともに。
私が高校1年の時のことだから、もう11年も前の出来事なのにいまだに記憶は鮮明だ。

 ……それくらい、ひたすら見つめてたもんね。一方的に。

先輩は、容姿端麗な上に勉強も運動もできて、さらには性格も優しくて人当たりが良く、生徒からも教師からも一目置かれる校内一の人気者だった。

当然、地味で目立たない私なんかと接点はない。

ただ、たった一度だけ、言葉を交わしたことがある。

あれは委員会で帰りが遅くなった雨の日。

傘を持ち合わせていなかった私は、下駄箱の前でザァーっと激しく降る雨を眺めて途方に暮れていた。

『傘、ないの?』

そんな時に背後から声を掛けてくれたのが先輩だった。

先輩は有名だったから、1年生の私でも名前と顔は知っていて、だからこそ突然のことに私は固まってしまった。

無言で顔を赤くしモジモジするだけの私に対して、先輩は嫌な顔ひとつせず、優しく微笑んだ。

『これ良かったら使って? 俺は家が近いから』

そう言って、さっと紺の長傘を差し出すと、雨の中を走り去って行った。

話したこともない、地味で冴えない私なんかのために親切にしてくれたことに、最初は呆気に取られ、ただただ驚いた。

同時に、胸が締め付けられるくらい、とてもとても嬉しかった。

今でもあの時先輩から向けられた明るく柔らかな笑みは脳裏に焼きついている。

でもそれは先輩にとっては別に特別な行為ではない。

先輩はただ単に困っている人を放っておけなかっただけで、誰にでも優しい人なのだ。

私はその出来事をキッカケにすっかり先輩に心奪われ、さらに先輩のことを知れば知るほどますます胸のトキメキを加速させていった。

そして気づけば初めての恋に落ちていた。
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