初恋の続きはトキメキとともに。
昔は一方的に見つめるだけだった初恋の相手だからこそ、信じられない思いに駆られてしまうのだ。

けれど、その真剣な表情を見れば冗談じゃないことくらい、すぐに分かった。

その顔に、理性を押しとどめている気配がある。

私のことを“女”として見ている――そんな眼差しだった。

初恋の先輩でも、会社の先輩でもない、初めて目にする洸くんの“男の顔”に、ドキッと胸がざわめく。

 ……こんなの、私の知ってる洸くんじゃない。だけど、洸くんの目が私だけを見ているのが、怖いくらい嬉しい……!

付き合うことになった時と同じように、これも洸くんの一時の気の迷いなのかもしれない。

いくら「魅力的」「可愛い」と言われても、洸くんが長年付き合っていた彼女に比べたら、私なんて道端の石ころみたいなものだ。

だから、もしかすると体を許した途端に、あっさり飽きられてしまう可能性だってある。 

だとしても、構わない。

いつか終わりが来るその瞬間まで、洸くんの隣にいる幸せを噛み締め、恋人の時間を精いっぱい楽しもうって決めた。

終わりに備えて心の準備さえしておけば、きっと大丈夫。

 ……ずっと好きだった……ううん、今も好きな人だもん。この関係が終わった時にだって、きっと宝物のような思い出になるはず。

一瞬のうちにそんな覚悟を決め、その気持ちを示すように私は洸くんの背中に手を回し、胸に顔を埋めてギュッと抱きついた。

思えば、こんなふうに自分から洸くんに触れたのは初めてだった。

そのせいか、驚くように洸くんの体がビクッと震える。

「……遥香、今このタイミングで抱きついてくるってどういう意味か分かってる? 押し倒されても文句言えないからね?」

「はい、文句なんて、言いませ――……」

心臓をバクバクさせながら口にした言葉は、熱い唇に塞がれ、最後まで紡ぐことができなかった。

洸くんの体温に包まれ、世界が静かに反転し、そのまま先程とは真逆の甘く優しいキスが繰り返される。

「――遥香、好きだよ」

そっと目を閉じた時、吐息に混じって私の耳に届いた囁き。

それは、初恋の人から贈られる初めての“好き”の言葉だった。

嬉しいとか、幸せとか、そんな単語じゃ追いつかない。

胸の奥がじんわりと熱くなって、こみ上げてくる何かに泣きそうになった。

 ……私も、昔も今も、ずっとずっと大好き。

心の中で浮かんだその言葉は、声になる前に喉の奥で消えた。

代わりに私は洸くんの首筋にギュッとしがみつく。

どんな言葉よりも確かな想いを、その腕に込めて――。
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