初恋の続きはトキメキとともに。

#02. 新生活の始まり

 ……うぅ〜、やっぱり緊張する……!

朝の満員電車に揺られること数十分。

駅からすぐのところにある本社を前に、私は胃をキリキリさせて立ち止まっていた。

目の前にそびえ立つ高層ビルに次々と人が吸い込まれて行くが、その波から外れて、一歩が踏み出せずに佇んでいる。

研修などで本社には何度か来たことはある。

けれど、いざ自分が働く場所として訪れると、なんだか以前と景色が違って見えた。

都会の真ん中に高々と建つビルが無言のプレッシャーをかけてくる。

 ……本社で働く人って、みんなオシャレで垢抜けてるなぁ。なんか私だけ場違いだよね? うぅ、本当にここでやっていけるかな……?

茉侑との会話でせっかく奮い立たせた気持ちが一気に萎んでいく。

だけど異動は覆せない。

今日からここで本社営業部の一員として私が勤務することはもう決定事項である。

だから、こんな状態ではダメだ。

私は指先に視線を落とし、茉侑に綺麗にしてもらったネイルを見つめて気合を入れる。

「大丈夫、私ならできる」と自身に暗示をかけるよう何度も心の中で呟いているうちに、だんだんと気持ちが落ち着いてきた。

ようやく意を決した私は、顔を上げて本社に向かって一歩を踏み出した。

 ……えっと、確か新しい部署の方がわざわざエントランスまで迎えに来てくださるんだったよね。

本社は初めてではないものの、ホームケア事業部の本社営業部のフロアへは行ったことがない。

今日から直属の上司となる営業一課の井澤(いざわ)課長と事前にメールでやりとりした際にその旨を伝えたところ、出社初日は部署のメンバーを向かわせるとの連絡をもらっていた。

本社ビルに入って受付のあるエントランスで私はキョロキョロと辺りを見回す。

余裕を持って少し早めに来たからまだ相手は来ていないようだ。

この時間帯は朝の通勤ラッシュのためエントランス周辺は非常に混み合っている。

エレベーターに向かう人の流れの邪魔にならないよう、私は受付近くの待ち合いスペースへ避難し相手を待つことにした。
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