幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
しかし、そんな俺の気持ちとは裏腹に、次に目を覚ましたのは、薄っすらと空が白みはじめた明け方だった。
美葉の香りには、俺を昂らせるのと同時に安心感を与えるという奇跡の効能があったらしい。一日の疲れや酒の効果も相まって、俺は深い眠りへ誘われてしまったようだ。
幸い美葉が目を覚ます前だったので、俺はベッドを抜け出して、事なきを得る。
とはいえ、一歩間違えばクールとは真逆の行動が美葉にバレてしまうところだった。
だからこれを教訓に、連休が明けた後はよりいっそう気を引き締め、美葉を夢中にさせる大人の男でいようと改めて決意したつもりだったのに――。
『みよちゃん、ヘパリン投与』
忘れもしない、大動脈を人工血管に置き換えるあの大手術の日。緊張感に満ちた手術の最中、俺はほぼ無意識で彼女をそう呼んでしまった。
あの時一瞬だけ凍り付いたオペ室の空気を思い出すと、『誰か俺を殺してくれ……』と懇願したくなる。普段は優しい美葉も、その件に関してはさすがに苦い顔をしていた。
同じ日には父親と兄の前で子どもっぽく嫉妬心を露わにし、家に帰ってからも荒ぶる心のやり場がなくて、美葉を困らせるような質問をぶつけてしまった。