幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
おにいさま、という言葉の破壊力に動揺を隠せないが、とにかく小森さんにこれ以上喋らせていたら次は何を言い出すかわからない。さっさと追い払わなければ。
「馬鹿な話はもういい。自分の職場に戻って」
「はぁーい」
不満そうに口を尖らせつつも、小森さんは大人しく心臓血管外科のオフィスから出ていった。俺は椅子に座り直したものの、自分の取るべき行動がわからず、とりあえず糸結びの練習を再開する。
……が、心ここにあらずでまったく集中力が戻ってこず、手元が狂って糸がほつれてしまう。
たとえば美葉とランチしていた相手が俺の父や、美葉の上司の八家先生だったら、なんとも思わなかっただろう。
しかし、兄は……兄だけは、どうしても美葉の周りをうろついてほしくないのだ。
居てもたってもいられなくなった俺は、ガタッと席を立ってオフィスを飛び出す。屋上へ出られるエレベーターは少し離れているので、非常階段へ続く扉を開け、一段飛ばしで上を目指した。
最上階の行き止まり、屋上へ続く扉を開くと眩しい日差しで一瞬目が眩む。
が、目が慣れるとすぐに周囲を見回してふたりの姿を探した。
「……いた」
俺の美葉センサーが反応したのですぐにわかった。ふたりはベンチに並んで座っており、必要以上に距離が近いわけではないが、和やかに談笑している。