幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

「洸、話が見えないんだけど」
「もちろんなにかあったらすぐに帰れるようにはしておく。連絡もこまめにする。だけど、俺にはまだ修行が足りないんだ」
「修行……?」

 俺は呆然とする美葉をその場に残し、ベッドから下りて仕事の準備を始める。

 美葉はしばらくその様子を黙って眺めていたが、しばらくすると持っていた袋の中から数個おにぎりを取り出し、袋に入っている残りを俺に差し出した。

「よくわからないけど、洸が頑張りたいなら応援する。これ、持って行って」
「おにぎり……。ありがとう」
「でも、その修行ってやつ、できれば早く終わらせてね。こんなに広い家で毎日ひとりなのは寂しいから」

 美葉はそう言って髪を耳にかけると、照れくさそうに上目遣いをする。

『じゃあやっぱりここにいる~!』と尻尾を振って抱きつきたいのを、すんでのところで堪える。まったく、美葉の近くにいると本当に危険だ。

「わかった。それじゃ行ってくる」
「いってらっしゃい」

 キスもハグも、微笑むことさえ我慢して、俺は美葉との愛の巣を一時的にあとにする。

 外に出ると病院へ続く道を無表情で歩き、振り返ってもマンションが見えない場所まで来ると、胸に手を当てて大きく息を吐いた。

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