幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

「ああ……かわいくて死ぬかと思った……」

 こういう発言をしたくなった時、美葉が目の前にいると困ってしまうのだ。

 風呂に潜って叫ぶとか、クッションに顔を埋めるとか色々方法はあるかもしれないが、それだと本人に見られたり気づかれたりするリスクがある。

 感情が溢れそうになった時でも自分の中できちんと消化しつつ、サラッと『かわいい』のひと言で済ませられるのが理想だ。

「俺ならできる」

 自分を奮い立たせるように呟き、背筋を伸ばして再び歩き出す。美葉にもらったおにぎりが袋の中でカサカサ揺れる音も、なんだか俺を励ましてくれている気がした。


 病院に寝泊まりするようになって二週間が経った。俺が家に帰らなくても、美葉は病院で会うたびに声をかけてくれる。

 仕事の話をすることもあるし、『ちゃんと食べてる?』とか、『実は私も料理の修行始めたんだ』とか、『でもうまくいかなくて、結局萬天酒家に食べに行っちゃったー』とか、私生活の他愛ない話を聞かせてくれる時もある。

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