幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「ここにいたのか、洸先生」
小森さんがなにか言いかけた直後、俺に声をかけてきたのは兄だった。
一般病棟の廊下とオペ室が並ぶ通路とを隔てる自動ドアからこちらに入ってきたので、これから執刀するオペがあるのかもしれない。
「章先生、どうしました?」
間に美葉の存在を介さなければ、兄とも普通に会話できる。俺が尋ねると、兄はちらりと小森さんを見た。
「少し外してもらってもいいかな?」
「は、はい……失礼します」
小森さんはぺこりと頭を下げ、自動ドアの方へ向かっていく。なにげなくその姿を目で追っていたら、兄が言った。
「お前、しばらく家に帰ってないんだって?」
「……仕事の話じゃないのかよ」
思わず顔をしかめてしまった。場所が場所だけに、緊急性のあるオペの話でもされるのかと思っていたのに。
「美葉は『洸にもなにか事情があるみたいだから』って気丈にしてたけど、俺は賛成できない。詳しい話が聞きたいから今夜飲みに行くぞ」
「えっ。……ふたりでか?」
「今まで俺が海外であまりそういうのできなかったんだからいいだろ。たまには兄孝行しろよ」
寂しそうに苦笑しながらそんなことを言われたら、さすがに断れない。
それに兄とは、一度きちんと話さなければならない気もしていたのだ。これも修行の一環と思って、正面から話をしてみよう。