幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「……わかった。何事もなければな」
「よし。決まりな」
ポン、と俺の肩に手を置くと、俺と入れ替わるようにオペ室に向かっていく兄。
この病院に来たばかりの頃は、日本とアメリカのオペの違いに戸惑うこともあったようだが、それからたった三週間で、重要な戦力として心臓血管外科で重宝されていた。
俺自身も何度か兄のオペをモニター越しに見学したが、大胆かつ繊細な手際に驚かされたし、真似したいと思うような技術がいくつもあった。
個人的な感情を無視すれば、うちの心臓血管外科にとって、兄が来てくれたことは明らかにプラスに働いているだろう。
勝手につまらない意地を張っているのは、俺だけなのだ。
「……わかってるんだけどな」
頭では割り切れても、心はそうはいかない。それでも、今夜兄弟で語らうことでなにか収穫があればと思いながら、気持ちを切り替えて仕事に戻った。
「いらっしゃいませ」
「ふたりです」
「こちらのカウンター席へどうぞ」
仕事の後、兄に連れられてやってきたのは上品で落ち着いた雰囲気のバーだった。
小ぢんまりとした店内は十人も入れば満席という感じで、隠れ家的な魅力がある。
暖色系の明かりがほんのり灯るカウンターの奥には、ワインやウイスキー、ブランデー、リキュールなど、多種多様な酒の瓶が整然と並んでいる。