幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

 大学病院時代に上司や先輩医師に連れられて何度かこういう店に来たことがあるが、そういえばめっきり足が遠のいていた。

 まさか、俺の方が美葉が喜ぶ店を知ってるマウント?

 ……いや、いくらなんでもそれは考えすぎだろう。兄はそんな低レベルな男ではない。

「洸は? なにを飲む?」

 俺の心の声など知る由もない兄が、酒の並んだ棚を眺めながら聞いてくる。

「任せる。酒は詳しくないんだ」
「意外だな。今はともかく、帝応大学時代には結構誘われたんじゃないか? 医局の結束を高めるとかなんとか理由をつけて」
「……何度かは付き合った。でも、翌日の勤務に響いたら困るし、そもそも酒を飲んでる暇があるなら勉強したかったから、そのうち断るようになった。いずれ実家の病院に戻ると決めていた俺のことを、上もあまり強くは誘わなかったしな」
「なるほど。大学病院も面倒だよな。とりあえず、俺と同じのでいいか」
「ああ」

 兄がバーテンダーに声をかけ、しばらくしてカウンターに背の高いグラスが置かれる。ビールとジンジャーエールを同じ割合で混ぜた、シャンディガフというカクテルらしい。

 口をつけるとスッキリとした味わいで、乾いた喉に心地よく染み込んでいく。

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