幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「……で? なんで最愛の美葉がいる家に帰らないんだよ。お前らしくもない」
グラスの中身が半分以下になった頃合いで、兄が本題を切り出す。
職場で飲みに誘われた時からその話をされることはわかっていたし、静かなバーで兄とふたりきりという状況が、俺をすんなりと素直にさせた。
「……修行なんだよ」
「修行? ああ、外科医としての?」
「違う。美葉の理想の男になるための」
恥ずかしい発言をしている自覚はあったので、グラスに残っていたカクテルを一気に呷った。目が合ったバーテンダーに、「同じものを」と注文する。
「美葉の理想って?」
「クールな大人の男だ。昔の兄貴みたいな」
「昔の俺……?」
兄が自分を指さして、首を傾げる。自覚はあまりないようだ。
「だから俺もそういう男になるべく色々やってみたし、その努力が実を結びつつあったはずだった。なのに、美葉との距離が近くなればなるほど、本当の俺が隠せなくなってくる。これじゃダメだと思って、一度美葉と離れてみることにしたんだ」
そこまで話し終えると、俺のもとに新しい酒が届く。さっそく二杯目に口をつけると、なんとなく感傷的な気分になってくる。
久々に酒を飲んだから、酔いが回るのが早いようだ。