幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

「俺も今すぐ帰りたいけど、実は今日、美葉は友達と会ってるから遅くまで帰らないんだ」

 俺が浮気だなんだと騒ぐから、美葉は自分の予定を律儀に俺に共有してくれている。

 今夜友達と食事してくるというのも、数日前にメッセージで教えてくれた。

「なんだ、そうか。……間が悪いな」
「でも、遅くなっても自分の気持ちはちゃんと伝えるつもりだ。兄貴はもう心配しなくていいから」
「けしかけといてなんだけど、洸がしっかりしちゃうとつまらないな」
「つまらないって。俺だってもう三十過ぎてるんだから」
「わかってる。仕事の上でもずいぶん成長してるからびっくりしたよ。お前がいれば、高比良総合病院は安泰だな」

 兄がそう言って穏やかに笑う。

 俺が帝応大から父の病院に移ったのと同じタイミングで兄が帰国したのは、頼りない弟の俺が後継者としてやっていけるのか、外科医としての腕はどうなのか、そういうことが心配だったのではないだろうか。

 本人に聞いても茶化される気がするので口にしなかったし、兄が本心でなにを考えているのかは、昔からよくわからない。

 それでも、きっとそうに違いないと思うことにして、本人に聞こえないほどの小さな声で「ありがとう」と呟いた。


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