幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
洸はそう言って、バナナを自分の口へ入れる。納得したようなことを言いながらも、明らかにしょんぼりしている。
思えば、〝あーん〟をしてもそれほど恥ずかしくないであろう十代の頃から洸はすでに私を想ってくれていたんだよね。
その長年の片想いがようやく今実ったというのに、こんなにあっさり拒否してしまって、かわいそうなことをしただろうか。
別に、三十代で仲睦まじくたっていいんだよね……人様に迷惑をかけるわけでもないし、ここなら知り合いに会うこともないだろうし。
「こ、洸。やっぱり、ちょうだい」
そう言って、「あ」と口を開ける。
すると暗い顔をしていた洸がぱぁっと笑顔になり、バナナの他に、苺とブルーベリーもまとめてフォークに刺し、うれしそうに私の口へ近づける。
その時――。
「あ。洸先生と雪村先生」
すぐそばで知り合いの声がして、ぎくりとする。
嘘でしょ? よりによって一番見られたくない場面で――。
「りゅ、竜崎先生……」
彼も休日で訪れていたのだろうか。現れたのはまさかの麻酔科の後輩。〝あーん〟は未遂に終わったけれど、絶対に見られたよね……。
どうしよう。とりあえず、平静を装わなければ。