幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「俺は雪村先生を心から愛してる。物心ついた時からずっと、彼女以外は目に入らない。だから、俺にはもう仕事以外で関わらないでくれ。迷惑だ」
抑揚のない声で告げると、小森さんは悔しそうに唇を噛んで俯く。
すぐには言葉が出ないようで、重苦しい沈黙が続いた。
「……わかりました。今までしつこくしてすみませんでした」
どうやらわかってくれたようだ。これ以上気を持たせないため、あえて慰めの言葉もかけない。
「ああ。それじゃ、俺はこれで――」
病棟の廊下へ繋がる扉に手をかけ、その場を後にしようとした時だった。俺の胸ポケットで院内用のスマホが鳴り、その場ですぐ応答する。
「はい」
『洸先生、これから救急科に応援来れますか? 急性心筋梗塞の患者さんです。こちらでカテーテルの準備を始めてますが、手を貸していただけると助かります……!』
急性心筋梗塞は処置が早ければ早い方がいい。発作を起こしてから九十分以内に詰まった血管を開通させるのが重要と言われている。
「わかった。すぐ行く」
通話を切って、もう一度扉に手をかける。直後に小森さんのスマホもけたたましく鳴り始めたが、彼女の方を振り返っている暇はなかった。