幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

 俺が救急科に着くころには血液検査や造影検査の結果が出ていた。

 しかし、その五十代の女性患者の状態があまり芳しくない状態だったので、画像を見た俺は思わず眉を顰める。

 詰まった血管が一本なら外科手術は必要ないものの、検査の結果病変は三カ所もあり、時間のかかるバイパス手術を施さなければならないからだ。

「オペ室、一番が空いているそうです」
「すぐ運んで。あと、オペに入れる他のスタッフの確保」
「はいっ」

 看護師に連絡を頼むと、自分自身も可能な限り早くオペ室に入る準備を始める。

 手洗いや消毒を済ませてオペ室の扉を開けると、すでに助手を務める医師、看護師や臨床工学技士、麻酔医がスタンバイしている。

 全身麻酔で眠る患者のそばについていた麻酔医は、偶然にも妻の美葉だった。

 さりげなく歩み寄ってきた彼女が、俺に小声で伝える。

「洸先生、患者さんの名前見ましたか?」
「見たけど、覚えてはないな。それがなにか?」
「小森鈴絵(すずえ)さん……あの小森さんのお母様だそうです」

 そう言われて救急科での記憶が舞い戻る。よくある名字だから全く気に留めていなかったが、そういえば患者の名は小森さんだった。

 誰であろうと命を救うことに変わりはないが、さすがに驚いて患者の方を振り返る。

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