幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
もしや、俺が呼び出された直後に小森さんにかかってきた電話は、お母さんの急病を知らせるものだった……?
「彼女、すごく取り乱していたんですけど、執刀するのが洸先生だと知って同意書にサインしてくれたんです。……絶対に助けたい」
言葉とは裏腹に、美葉の揺れる瞳には少しの不安が滲んでいた。気持ちはわかるが、患者の命を預かる医者がそんな顔をしていてはダメだ。
「助けたいじゃなくて、助ける、だ。小さな変化も見逃すなよ、雪村先生」
「……はいっ」
俺の言葉でハッとしたように目を見開いた彼女は、自分を奮い立たせるようにこくこく頷く。
美葉ならきっと大丈夫。俺たちで、小森さんの母親を助ける。
手袋やガウンを装着しオペのあらゆる準備が整うと、患者の前に立った。
「これより、心拍動下冠動脈バイパス術を開始します。まずはグラフト採取から。……メス」
「はい」
グラフトとは、狭くなった冠動脈の先に新しい血流経路を作るため、患者自身の体から採取する健康な血管だ。それを縫い合わせることで、心機能を回復させる。
血管の縫合はかなり繊細な技術を要求されるので、手術用の拡大鏡で注意深く術野を見ながら、慎重かつ迅速に手先を動かしていく。