幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「遅くなっちゃったし、萬天酒家でご飯でも食べない?」
病院を出て歩き出したところで、美葉が思いついたように言う。昼間は雨が降っていたはずだが、いつの間にか上がっていたらしい。雲間からいくつかの星が顔を出していた。
「いいな。これから作るのも億劫だし」
「今日は私が奢るね」
「……美葉、なんかいいことあったのか? 残業してたのに疲れてなさそうだし」
並んでゆっくり歩く彼女の顔を覗き込む。思い当たるのは、オペで小森さんの母親を救えたことくらいだが、なんとなくそれが理由ではない気がした。
美葉はほんのり頬を赤く染めて、俺を見上げる。
「実はね。私、小森さんが洸に告白してる現場にいたの」
「えっ? それって……病院の非常階段?」
「そう。エレベーターが混んでたから階段で行こうと思って下から上っている最中に、ふたりの声が聞こえて」
まさか、あの空間に美葉がいたとは驚いた。だからといって、別に聞かれて困る会話をしていたわけではないが。
「俺、ちゃんと断ってただろ?」
「うん。もしも洸がハッキリ断らないようだったら、私、階段を駆け上がって『洸先生は譲れない』って言うつもりだった」
「えっ! 俺はむしろそっちを聞きたかった……」
「ふふっ。残念でした」