幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「雪村先生、すみませんでした!」
「えっ? ちょっとそんな……頭を上げてよ。私、謝られるような心当たりは別に……」
「洸先生のことです。もっとも、私がひとりで騒いでいただけで、ご夫婦の絆が揺らぐようなことはまったくありませんでしたけど……それでも、自分勝手な行動だったって反省しています」
「小森さん……」
何事もなかったかのように振る舞うことだってできたはずなのに、わざわざ謝りに来るなんて。無鉄砲なところもあるけれど、根は真面目のようだ。
「それと、母の手術……ありがとうございました。手術の後、話せるようになった母が言ってました。麻酔科の女医さんがすごく丁寧に説明してくれたから、自分の体の状態がよくわかって、安心できたって」
「そう。患者さんにそう言ってもらえるとやっぱりうれしいな。教えてくれてありがとう。それにお母様、退院が決まったんだってね。おめでとう」
そう言って微笑みかけると、小森さんはなぜか寂しそうな笑顔になる。
まさか、一度決まった退院が延びてしまうようなことでもあった……?
「お母様、調子がよくないの?」
「いえ、違うんです。母は順調に回復してます。ただ、雪村先生には敵わないなぁって思って」
「私に……敵わない?」
「はい。私のこと、ライバルとも思ってないような余裕の態度ですし、母のことも私のことも、きっと本気で心配してくださってますよね。……もう、人として完敗です」
言い終えると、小森さんはどこか吹っ切れたような表情を浮かべた。洸にアプローチしていた動機はどうあれ、過剰な執着心からようやく解放されたようで、私もホッとする。