幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家
「緊急手術ですか?」
「……ああ。救急科から応援要請。CTの結果待ちだけどおそらく大動脈解離だろうと」
大動脈解離……。一刻も早く処置をしなければ、命に係わる病気だ。
「麻酔科医は手配できているんでしょうか? もしいなければ私が――」
「大丈夫。救急が探していたのは執刀できる外科医だけだ。じゃ、おにぎりごちそうさま」
「そっか。行ってらっしゃい。頑張ってね」
白衣を翻し足早に屋上を離れようとする彼の背中に、そう声をかけた。
私が応援せずとも彼ならうまくやるだろうと理解はしているが、幼なじみとしての感情がつい出てしまったのだ。
洸は応えるように軽く手を上げると、振り向かずにそのまま屋上から去っていった。
ひとりになると、先ほどまで彼と交わしていた会話が脳裏に蘇る。
『……で。いつする? 結婚』
今日はたまたま質問に答えずに済んだけれど、どうやら洸は本気みたいだ。結婚したいと熱望していたのは自分なのに、いざ叶いそうな状況になると戸惑ってしまう。
洸がどんな意図で私と結婚しようとしているのか、ちゃんと確認してからじゃないと検討しようがないよね……。
ため息をついて、ベンチの背もたれに深く寄りかかる。
まだおにぎりをひとつしか食べていないのに、空腹感はすっかりどこかへいってしまった。