幼なじみドクターはクールなふりして愛妻家

「緊急手術ですか?」
「……ああ。救急科から応援要請。CTの結果待ちだけどおそらく大動脈解離だろうと」

 大動脈解離……。一刻も早く処置をしなければ、命に係わる病気だ。

「麻酔科医は手配できているんでしょうか? もしいなければ私が――」
「大丈夫。救急が探していたのは執刀できる外科医だけだ。じゃ、おにぎりごちそうさま」
「そっか。行ってらっしゃい。頑張ってね」

 白衣を翻し足早に屋上を離れようとする彼の背中に、そう声をかけた。

 私が応援せずとも彼ならうまくやるだろうと理解はしているが、幼なじみとしての感情がつい出てしまったのだ。

 洸は応えるように軽く手を上げると、振り向かずにそのまま屋上から去っていった。

 ひとりになると、先ほどまで彼と交わしていた会話が脳裏に蘇る。

『……で。いつする? 結婚』

 今日はたまたま質問に答えずに済んだけれど、どうやら洸は本気みたいだ。結婚したいと熱望していたのは自分なのに、いざ叶いそうな状況になると戸惑ってしまう。

 洸がどんな意図で私と結婚しようとしているのか、ちゃんと確認してからじゃないと検討しようがないよね……。

 ため息をついて、ベンチの背もたれに深く寄りかかる。

 まだおにぎりをひとつしか食べていないのに、空腹感はすっかりどこかへいってしまった。

< 21 / 204 >

この作品をシェア

pagetop